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大阪地方裁判所 平成12年(ワ)746号 判決 2000年6月09日

原告

細川宏

ほか三名

被告

宮崎稔信

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告らそれぞれに対し、各金五八七万六八七八円及びこれに対する平成一一年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を原告らの、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、各自、原告らそれぞれに対し、各金八一三万八四四二円及びこれに対する平成一一年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1(本件事故)

(一)  日時 平成一一年六月一八日午前一〇時五分ころ

(二)  場所 大阪市生野区舎利寺二丁目七番二八号先路上

(三)  加害車両 被告宮﨑稔信(以下「被告宮﨑」という。)運転の普通貨物自動車(なにわ四五に九一七一)

(四)  態様 加害車両が本件事故現場道路を南から北に向かい走行し、高見方前路上(三差路)を右折するに際し、右路上を高見方から帰宅のために歩行横断中の亡細川シズ子(以下「亡シズ子」という。)に衝突したもの

右道路の制限速度 時速三〇キロメートル

2(責任)

(一)  被告宮﨑は、本件交差点を右折中に、前方(北方向)から走行してくる自転車の存在に気を取られ、交差点内を横断中の亡シズ子の発見を怠り、漫然と加害車両を走行させ、本件交差点南東角付近で、亡シズ子に加害車両を衝突させたものであるから、民法七〇九条に基づく損害賠償責任がある。

(二)  被告山本金属株式会社は、加害車両の所有者であり、これを自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法三条に基づく損害賠償責任がある。

3(亡シズ子の死亡)

亡シズ子(明治四二年一二月二八日生)は、本件事故により脳挫傷、頭蓋底骨折、急性硬膜下血腫の傷害を負い、平成一一年六月一九日午前二時四五分、搬送された医療法人アエバ会アエバ外科病院において死亡した(死亡時八九歳)。

4(相続)

原告らは、いずれも亡シズ子の子であり、法定相続分(各四分の一)の割合で亡シズ子を相続した。

二  争点

1  損害

(一) 葬儀費用 二一八万三三六二円

(二) 逸失利益 五三七万〇四〇七円

(1) 家事労働分

<1> 年収 二九八万九四〇〇円

<2> 就労可能年数 二年(ライプニッツ係数一・八五九)

<3> 生活費控除率 三〇パーセント

298万9400円×(1-0.3)×1.859=389万0106円

(被告ら・亡シズ子は八九歳であったこと等からすると、金銭的評価が可能な程度の就労状態にあったとはいえないから、家事労働分の逸失利益は認められない。)

(2) 年金分(老齢年金)

<1> 年金 年四八万八五〇〇円

<2> 平均余命 五年(ライプニッツ係数四・三二九)

<3> 生活費控除率 三〇パーセント

48万8500円×(1-0.3)×4.329=148万0301円

(被告ら・年金受給権に逸失利益性が認められるとしても、亡シズ子には年金以外の収入がないこと等を考えると、年金はすべて生活費として費消されるものと評価すべきである。)

(三) 死亡慰謝料 二二〇〇万円

(四) 以上合計二九五五万三七六九円(四分の一は七三八万八四四二円)

(五) 弁護士費用 各七五万円(合計三〇〇万円)

2  過失相殺

(一) 本件事故現場は、三差路交差点であり、被告宮﨑は、南北道路を南から北に向かい本件交差点にさしかかり、本件交差点を右折しようとした。

(二) 亡シズ子は、本件交差点を斜め横断していた。

(三) したがって、二割の過失相殺をすべきである。

第三判断

一  争点1(損害)

1  葬儀費用 一二〇万円

本件事故と相当因果関係のある葬儀費用は一二〇万円と認めるのが相当ある。

2  逸失利益 二三〇万七五一四円

(一) 家事労働分 一六七万三一〇〇円

証拠(甲七の1ないし3)によれば、亡シズ子は、いずれも独身の子である原告細川宏、原告細川昭及び原告細川豊と同居して生活し、家事労働に従事していたことが認められること、亡シズ子の年齢(八九歳)、平成一〇年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計、六五歳以上の女子労働者の平均賃金が年二九八万九四〇〇円であること、平成一〇年簡易生命表によれば、女子八九歳の平均余命は五年であることからすると、亡シズ子の死亡による逸失利益のうち、家事労働分は、基礎収入を前記賃金センサスの値のほぼ六割に当たる年一八〇万円、就労可能年数を二年(ライプニッツ係数一・八五九)、生活費控除率五割として算定するのが相当であるから、次の計算式のとおり一六七万三一〇〇円となる。

180万円×(1-0.5)×1.859=167万3100円

(二) 年金分(老齢年金) 六三万四四一四円

証拠(甲六)によれば、亡シズ子は、国民年金の老齢年金年四八万八五〇〇円の支給を受けていたことが認められるから、右年金受給権喪失による逸失利益については、平均余命期間である五年間(ライプニッツ係数四・三二九)、生活費控除率七割として算定するのが相当であるから、次の計算式のとおり六三万四四一四円となる。

48万8500円×(1-0.7)×4.329=63万4414円

3  死亡慰謝料 一八〇〇万円

本件に表われた諸般の事情を考慮すると、亡シズ子の死亡慰謝料は一八〇〇万円と認めるのが相当である。

4  以上を合計すると、二一五〇万七五一四円となる。

二  争点2(過失相殺)

前記争いのない事実1(本件事故)、2(責任)に証拠(甲八、九の1、2、4ないし16)を総合すると、次の事実が認められる。

1  本件事故現場は、南北方向の北行一方通行道路(幅員三・二メートル、西側に二・〇メートル、東側に二・八メートルの路側帯がある。)に東から東行一方通行道路(幅員三・一メートル、北側に一・九メートル、南側に二・一メートルの路側帯がある。)が交差する交通整理の行われていないT字型交差点(以下「本件交差点」という。)であり、付近は人家が密集している地域である。

2  被告宮﨑は、加害車両を運転して、南北道路を南から北に向かい時速約三〇キロメートルで本件交差点に向かい、東に向かい右折進行しようとしたが、時速約一〇キロメートルに減速したが、対向してくる自転車に気をとられ、交差道路の安全を確認しないまま、右折進行し、折から交差道路を南から北に向かい歩行横断中の亡シズ子の発見が遅れ、同女に加害車両を衝突させた。

3  衝突地点は、本件交差点の南東角の路側帯からわずかに北側付近であった。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

右に認定の事実によれば、本件事故発生の原因は、被告宮﨑が右折するに当たり、進行道路の安全を確認しなかったことにあり、一方、亡シズ子にも道路を横断するに当たって、車両の有無、動静についての注意がいささか足りなかったのではないかとも思われるが、同女の年齢、本件事故現場が人家の密集地域であること、道路の状況等からすると、右の点をもって過失相殺しなければ損害の公平な分担という不法行為制度の趣旨に反するとまではいえないから、本件においては、過失相殺はしないこととする。

三  相続

原告らは、前記亡シズ子の損害賠償請求権二一五〇万七五一四円について、その四分の一である各五三七万六八七八円宛相続した。

四  弁護士費用 各五〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、原告それぞれについて各五〇万円と認めるのが相当である。

五  よって、原告らの請求は、原告それぞれについて各五八七万六八七八円及びこれに対する本件事故の日である平成一一年六月一八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 吉波佳希)

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